――脚本、ほんとにぎりぎりになりました。
近江 ワースト記録更新です。役者には迷惑かけました。おわびのしようもなくて。
――時間がかかった。「時間魔人」だけに。
近江 時間のかかり具合は同じだと思う。延べ時間はいつもより短い気がする。ただ、書く時間がなかなかなかった。イベントに参加したりそういうのもあったから致し方ない。
――フェスに出す作品としては珍しいタイプのものですよね?
近江 そうだね。フェスのはこのところウェルメイド系が多かったからね。似てるのに「くるみ割り」があるけど、「くるみ」は完全にファンタジーだからね。「時間魔人」は「カノープスの刺客」や「フラ・レター」の流れに位置してる。
――そうですそうです。そんな感じ。
近江 自分で言うのも何だけど、探偵、刑事、医者と3拍子そろったからね。やっぱり書きやすいのかな、そういうの。
――科学ミステリーですか。
近江 まあ、そういうのとも違うんですが。よそおいというか毛色は似てますね。事実は小説より奇なり、ってやつです。
――時間がテーマでアインシュタインも引用されてる。
近江 光速に近いスピードで旅行すると未来に行けるという話、理論的には事実というわけだからまさに奇だよね。新幹線で移動した場合もわずかに時間が遅れるなんて、うっそーって感じでしょ?相対性理論をNHKでわかりやすく解説してるのがあったけど、面白かった。
――それと「エンジェル・ポスト」から流れてきている「生まれ」の問題もありますね。
近江 「ポスト」の話から「生まれたいヒト」を経て「時間魔人」へ。それぞれまったくタイプの違う作品ですが、出自をめぐる(誰が親かをめぐる)問題は背景に一貫して流れています。そういう意味では三部作的な色合いはあります。
人間はいつの時代でも技術と倫理のはざまに苦しんでいます。科学は宇宙の謎や命の誕生の謎を解こうとするけれど、解けた途端に、人工授精や原子力の問題が浮かび上がる。科学の進歩は必ず負の部分をかかえこむことになるんです。そこに苦しむ人間が出てくる。でも時計の針は戻せない。時間は戻しがきかないわけです。このあたりのことを物語や人間関係(いじめなども)を通して、表現できていたらいいなというお芝居です。
――いっぺんに解説してもらっちゃったみたいで恐縮です。ぜひ生の舞台でありありと感じたいと思います。ありがとうございました。
(聞き手 劇団制作部)